近年、労働基準監督署による賃金不払事案への取り締まりが強化されています。
今回は令和5年度に全国の労働基準監督署で取り扱われた賃金不払い事案に関する最新のデータと、実際にあった監督指導(立入調査)の事例をご紹介いたします。
1. 増加傾向にある賃金不払い問題
まず、令和5年の全国データを見てみましょう。
賃金不払い事案の件数は21,349件で、前年より818件も増加しています。
対象となった労働者数も181,903人と、前年から2,260人増えました。
ただし、金額については101億9,353万円と、前年より19億2,963万円 減少しています。
1件あたりの金額は小さくなっていますが、件数自体は増えているということです。
2. 労働基準監督署の指導による解決状況
上記1の事案に対し、労働基準監督署は積極的に指導を行っています。
その結果、なんと20,845件(97.6%)が解決に至りました。
174,809人の労働者が約92億7,506万円(91%)の未払い賃金を受け取ることができました。
労働基準監督署の指導は、非常に効果的だということがわかります。
3. 実際の事例から学ぶ:飲食業のケース
ここで、とある飲食業で実際にあった賃金不払いの事例をご紹介します。
この事業場では、日々、勤怠システムにより管理を行っています。当該システムに搭載された端数処理機能を利用して、日ごとの始業・終業時刻のうち15分未満は切り捨て、休憩時間のうち15分未満は15分に切り上げる処理が行われていました。
また、制服への着替え時間を労働時間に含めていませんでした。
労働基準監督署は、この状況に対して、労働時間の適正な把握と過去の労働時間の実態調査を指示。さらに、不足していた賃金の支払いを命じました。
4. 事業場の対応と改善策
この指導を受け、事業場は以下の改善策を実施しました。
- 従業員へのヒアリングを通じて、正確な労働時間を再計算し、不足していた割増賃金の支払いを行った。
- 勤怠システムに搭載された端数処理機能の設定を見直し、始業・終業時刻の切り捨て、休憩時間の切り上げ処理をやめ、1分単位で労働時間を管理することとした。
- 制服への着替え時間を労働時間としてカウントするよう改定することとした。
まとめ
今回の事例は、日々の業務の中で「ちょっとした慣例」が、実は法律に抵触している可能性があることを示しています。
労働時間や賃金の管理は非常に重要であり、適切に行われない場合、従業員の権利を侵害するだけでなく、事業者にとっても大きなリスクとなります。
今一度、自社の勤怠管理方法を見直す機会としていただければと思います。